しばらく釣りに行けそうにないので、釣りに関する“初めて”について書いていきます。
初めてのルアー
小学校3年で大阪・堺から東京の町田に転校した。堺に比べ町田には自然がたくさん残っていた。堺にいた頃に始めていた釣りも、釣り場が多く拍車が掛かった。
町田の住居は公団団地で、団地内の本屋でふと目に止まったのが、井上博司著「ルアーづり秘訣集」だった。その頃、なぜだかナマズに惹かれ、ナマズを釣りたくて仕方がなかった。秘訣集には対象魚別の狙い方や適したルアーも記されていた。それによると、ナマズは暗いところを好むため、“ヒカリモノ”が良い、とのことであった。
その頃町田は、小田急線と横浜線が乗り入れており、横浜線の駅名が原町田、小田急線は新原町田となっていた。新原町田駅にほど近い場所に「吉田釣具店」があり、母親の買い物に連れて行ってもらっては、その店を覗いていた。店は小さな作りで、餌釣りの道具と少しのルアーを置いていた。中年の女性姉妹がやっており、釣具店としては珍しかった。古き良きたたずまいと、常連客、ヘラブナの餌のにおいのする釣具店であった。そこで母親と約束をして、「良い子で居たら、月1つルアーを買ってもらえる」事になった。我が家はその日食べるものに困るほどではなかったが、決して裕福な方ではなく、当時でも1つ1000円以上するルアーは、小学生にはおいそれと手の出る品物ではなかった。月一ルアーが決まってからは、秘訣集がすり切れるほど読み、どれを買うかを楽しみにしていた。
いざ、その日、吉田釣具店のウインドウを覗くと、プラグ、スプーン、スピナーが並べられていた。ナマズが釣りたい=ヒカリモノ=スプーンという図式ができあがっていたので、特にスプーンを入念にサーチした。アブのトビー、アトム、ダーデブル、
どれも魅力的ではあるが、ダイワ意外は値段も良い。でも、今のところダーデブルの赤白の曲線が一番かなぁと、さんざん迷ってふと顔を上げると、壁に掛かったいわゆる安物ルアーが目に入った。色はダーデブルと一緒の赤白。我が家の経済状況を何となく知っている自分としては、あまり高いものを買ってはマズイという、何となくひねくれた思考回路(チキンライスの歌詞がズバリ当てはまる)もあり、釣具屋のオネイサンに、指を差して、「これでもナマズ釣れますか?」と恐る恐る聞いた。「これね?」と言って手に取らせてくれた其れは、裏返すと、銀色の“ヒカリモノ”であった。「釣れると思うわ」という後押しもあり、生涯初ルアーは名もない赤白スプーンとなった。